COLUMN

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本人選手奮闘記

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本人選手奮闘記

ヒル理奈選手の独占インタビュー

日本だけでなく世界のバスケットボールを長年見続けてきたNBAライター宮地陽子さんの海外日本人選手奮闘記。第2回は桜花学園高校卒業後に渡米し、ルイジアナ州大で青春を過ごしたヒル理奈選手の独占インタビューをお送りします。

3月18日、ヒル理奈のルイジアナ州大(LSU)での4年間の選手生活が終わりを迎えた。テキサス州ウェイコで行われたNCAAトーナメント1回戦、LSUはカリフォルニア大相手に一歩及ばず、55対52で敗退したのだ。桜花学園高校を卒業後に渡米してから5年。バスケットボールも勉強も、常に100%で取り組んだ毎日だった。

LSUのヘッドコーチ、ニッキー・ファーガスはヒルについて、「テネシー大時代も含めて私がコーチしたり、いっしょに過ごしたことがある選手の中で、誰よりも努力家」と最大級の賛辞を贈る。
ヒルの選手としての能力は、ボックススコアを見ただけではわかりにくい。ほぼ毎試合一桁得点で、アシストやリバウンドなども特に目立つ数字ではない。今シーズンの平均値も5.6点・1.5アシスト・1.4リバウンドだった。それでも、出場時間はほぼ毎試合、フル出場に近い。コーチに信頼される何かを持っているのは確かだ。

ファーガスHCは、ヒルのチームへの貢献について「彼女がそうやって無私でいてくれることで、うちのチームは自分たちらしくいられるんです」と語る。
ヒル自身、数字に対するこだわりはあまりないという。毎試合意識しているのはディフェンスとリーダーシップ。チームが勝てば満足だと断言する。

「チームの勝利が優先。チームの勝利に必要なことだったら100%の力でやる。(コートに出ている)5人全員が『自分が』『自分が』になると、うまくいかないと思うんですよ。そういう時にしっかり調和できるような役割の選手って必要だなと思うんで。泥臭い仕事でも、それが勝利に必要なことならやりたい」

トップレベルの中で戦いたいと渡米し、選んだLSU。実際に強豪揃いのサウスイースト・カンファレンス(SEC)で1年のときから試合に出て、全米のトッププレイヤーたちを相手に戦ってきた。目標としていたファイナルフォー(全米ベスト4)にこそ行けなかったが、ほぼ毎年、NCAAトーナメントに出た。
唯一、NCAAトーナメントを逃したのが昨シーズン。チームメイトたちに大きな故障や病気が相次いて戦力不足。幸いヒルは健康で、毎試合フル出場することが求められた。ヒルの気持ちの強さに引っ張られるように、チームは毎試合競っていたが、最後のところで勝ちきれず、10勝21敗と大きく負け越し。NCAAトーナメントには出られなかった。

「去年は、NCAAトーナメントってそんなに簡単に行けるもんじゃないっていうのを痛感した年でした。入学した時には、まさか、あんなシーズンを送るなんて思ってもいなかったけれど、そういうシーズンがあったのも、自分のジャーニー(旅路)。コートでいろんなことを学ぶことができて、選手として成長できた。監督との信頼関係も上がったと思う。そういう意味では、すべては必要なステップだったんじゃないかな、と思います」

間もなくLSUを卒業するヒルにとって、バスケットボールにおける目標は大きく2つある。ひとつは、日本代表入りしてオリンピックに出ること。
U17、U18とアンダー世代では代表に選ばれていたヒルだが、アメリカに留学し、日本を離れてからは、日本のコーチや協会関係者にプレーを見てもらう機会もなく、代表選考の"対象外"になっているように感じていた。それだけに、去年夏にコロラドで開催されたユニバーシアード代表の合宿に招へいされたことは、自分がやってきたことを認めてもらえたようで嬉しかったという。当時のユニバーシアード代表の恩塚ヘッドコーチが、わざわざLSUまでプレーを見に来て、合宿への招待を決めてくれたのだという。

「自分たち(アメリカにいる選手たち)は将来、代表入りしたかったり、NBAやWNBAなど、さらに大きな舞台に立つためだったり、それぞれの目標に向かうために、さらに成長できる大事なステップだと思ってアメリカに来ている。でも、アメリカに行った時点で(選考の)対象外になるケースが多い。見えるところでプレーしないと呼ばれない。そういう中でユニバーシアードの合宿に呼ばれたっていうのは、自分の中ですごく大きなステップでした」

去年夏、女子日本代表の選手たちは、リオ五輪準々決勝でアメリカ代表と対戦し、様々な面でその差を痛感したと伝えられている。ヒルには、LSUでの4年間で、アメリカの大学トッププレイヤーたちを相手に、同じような経験を積み重ねてきたという自負がある。

「ずっと日本でプレーしていると、他の国の人たちと敵としてしか戦う機会がほとんどない。(オリンピックなどの)試合で対戦しても40分だけ。それは短いと思った。敵としてとだけやりあうだけでなく、チームメイトとの練習で対戦することで、相手のフィジカルや身体能力、ペース、プレースタイルに慣れることができる。それにプラスして試合、練習などの取り組み方、思考、いろんなことを知ることもできた。同じレベルで毎日いっしょに練習する時間を過ごせたのは、いい勉強になったし、学ぶことは多かったなと思います。そして改めてこのレベルでも戦えることがわかった。もしD1の大学へ行きたいと考えている人がいるのならぜひ挑戦してほしい」

日本代表入り、オリンピック出場と並ぶもう一つの目標はWNBA入りだ。もっとも、そのためには大学でスタッツをあげていないことがマイナスになることも理解している。ずば抜けたサイズがあるわけでもなく、スタッツもあげていないと、WNBA入りどころか、チームのコーチやスカウトにプレーを見てもらう機会も限られてくるからだ。

「WNBA入りは、昔から変わらず一番の目標です。もし行けるんだったらそのレベルでやりたい。どういう形で行けるかはわからないですけれど、必ず挑戦します」

将来の夢は、選手としての夢だけにとどまらない。大学でビジネスを専攻したヒルは、いつかアメリカに出てきて1年目に行ったIMGアカデミーのような施設を建て、アジア人選手たちがアメリカなど外に向けてプレーを見せ、外国人選手と切磋琢磨するような場を作りたいのだと熱く語る。
高校卒業と同時に、勉強とバスケットボールをするためにアメリカに出てきた18才のティーンエイジャーは、5年たってその熱さを持ち続けたまま、成長した。

「この5年は人としても選手としても、いろんな意味で成長できた。バスケだけじゃなくて、バスケより世界って広い。どの分野でも、ちゃんと努力して、ちゃんと常に吸収していくのがすごく大事だなと感じました」