COLUMN

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本人選手奮闘記

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本人選手奮闘記

八村塁 NBAへの旅路

日本だけでなく世界のバスケットボールを長年見続けてきたライター宮地陽子さんの海外日本人選手奮闘記。第4回は「今、最もNBAに近い日本人、八村塁の現在とこれから」についてゴンザガ大アシスタントコーチ、トミー・ロイド氏のインタビューと共にお送りします。(文・写真/宮地陽子)

「ルイ、きょうは君が会見場に行くかい?」
11月26日、ポートランドで開催されたPK80トーナメント(ナイキ創設者であるフィル・ナイト氏の80歳の誕生日を祝うために開催された全16チーム、2ブラケットのトーナメント)のテキサス大戦の試合後、八村塁はゴンザガ大の広報スタッフから、そう声をかけられた。 NCAAでは、メディアが大勢集まるような試合では、活躍した選手がヘッドコーチと共に会見場で記者会見を受けることが多い。この日の試合で八村は、試合最多得点で彼自身にとっても自己最多の20点を上げたほか、9リバウンドを取る活躍をして勝利に貢献していたのだ。

留学1年目の昨シーズンは、言葉の問題もあって、英語でのメディア対応を免除されていた八村だが、それでも今年3月頃には1対1なら英語でインタビューの受け答えができるまで英語力を上達させていた。日本語でなら会見の経験もあり、メディア慣れもしている。広報担当も、そろそろ彼にやらせてみようと思ったようだ。
しかし、八村はその誘いに「ノーウェイ(まさか)!」と、必死に会見行きを辞退。結局、この日の会見には別の選手が登壇した。

後からそのことを聞くと、八村は「だって無理ですよ。無理、無理。できないです。そういうの、あんまり慣れていないんで」と弁明していた。去年春に日本を離れ、ゴンザガ大に留学した八村にとって、この1年は新しい経験の連続だった。新しいことにぶつかるたびに、様々な壁を乗り越えてきたが、英語での記者会見という壁は、跳び越えるにはまだ少し高いようだった。

「ルイは日本的な性格で、ミスをしたくないと思っているんだ」
八村をそう分析したのは、ゴンザガ大アシスタントコーチで、八村をはじめ、多くの海外選手をリクルートしてきたトミー・ロイドだ。 それは、記者会見や取材だけの問題ではない。コート上でも、ミスをしないように意識しすぎてしまうことが多々ある。確かにミスはしないにこしたことがないし、実際にディフェンスのローテーションでミスすると、ベンチに下げられることも多い。しかし、ミスを恐れるあまりに無難なプレーに終始すると、自分の持ち味を生かすことができない。

八村自身も、そのことは十分に自覚していた。
「ミスを怖がらないでプレーするっていうことも大事。ミスをしないようにしていると、(かえって)ミスしたり、積極性がなくなったりするので、そういう調整もこれから学んでいかないといけないと思っています」と語る。

たとえば、テキサス戦の2日前、PK80の2回戦で、全米ランキング7位のフロリダ大と対戦したときには、ゴンザガ大(この時点で全米17位)よりランキングで上のチームと対戦したからか、いつも以上に失敗することを警戒しすぎてしまった。 「失敗しないようにという感じでやって、アタックする気持ちがなかった。だから、きょう(11月26日、対テキサス大戦)はもう僕、自分で決めて、何がなんでも、ミスしても何だろうが行こうという気持ちでやった。それがよかったんじゃないかと思う」と八村。 相手のレベルが上がれば上がるほど、ちょっとした判断ミスがターンオーバーになったり、相手の連続得点につながってしまう。 失敗を恐れない気持ちを作るうえで大事なのは、準備をして挑むこと。コーチ陣の指導のもと、この夏はゴール近くの攻撃のバリエーションを増やす練習をした。

ポストアップやフェイスアップからのフットワークに磨きをかけた。八村の運動能力やサイズは、アメリカのトップレベルの大学の中に入っても見劣りすることはない。実際、八村自身も、テキサス大の注目選手で、手足の長さや身体能力の高さで、ドラフト上位指名が予想されているモハメド・バンバを相手にしたときも、「そんなにでかいとは感じなかった。僕も手の長さもあるし、運動神経的にも僕のほうがあると思う」と自信をのぞかせていた。 それにしても、テキサス戦での活躍で八村の名前は全米のNCAAファンだけでなく、会場に来ていたNBAチームのスカウトやGMたちの記憶にも刻まれた。昨シーズンは八村について尋ねると、「まだ(NBA入りを語るには)早いね」といった反応が多かったのだが、この試合の活躍を見た後で、7月のFIBA U19ワールドカップの八村のプレーを映像で改めて見返したと言っていたNBAスカウトもいた。U19ワールドカップの活躍(大会2位の得点と3位のリバウンドを記録し、強豪イタリア相手に互角に渡り合ったほか、日本男子代表として歴代最高の世界10位に終わった)で、名前は知られるようになっていたのだが、アメリカの大学レベルで初めて、その運動能力とスキルの高さを見せたことで、NBAスカウトの視線が真剣になってきた。八村自身も、以前から目標としてきたNBAという舞台が、少しずつ近づき、現実的になってきたのを肌で感じているようだった。
その一方で、このところ、アメリカのドラフト予想サイトで八村の名前が一巡目の真ん中ぐらいであげられているのを、そのまま鵜呑みにするわけにはいかない。
ロイド・アシスタントコーチは「ああいうランキングを作る人たちは、ショック効果を狙っている。みんな、『自分が一番に彼に注目した』と言いたいからね」と警告する。

日本のファンが八村に期待する気持ちはよくわかる、とロイドACは言う。NBAに行けるだけの才能を持った選手だと認めているからだ。

「日本だけでなくアジアまで広げてみても、アジアから本当にNBAレベルですばらしい選手がどれだけ出てきたか。ルイのような本物の才能ある選手と考えると、1人(ヤオ・ミン)だけではないか。ルイはすごく画期的なことをやろうとしているんだ。だからこそ、私たち(ゴンザガ大コーチ陣)はルイについては辛抱強くしなくてはいけないと思っている。彼の才能から考えると、あのレベル(NBA)でプレーすることができるべきだと思うけれど、それでも、彼がそれをできるようになるまで見守りたい。ルイはまだ若く、学んでいる途中だ。そしてみんなを喜ばせたい、誰も失望させたくないとも思っている。だから、自分が活躍できなかったときには落ち込み、控えめになってしまう。アメリカ人の選手だったら、うまくいかなくても、やりすぎなくらいアグレッシブに行こうとする。ルイはその反対だ。どちらがいい、悪いではなく、メンタリティにそういう違いがある。だからルイにとっては時間がかかるんだ」

八村自身も、失敗したときに自分の積極性がなくなることは自覚し、その上で、ひとつ上のレベルに行くために変えようとしている。

「やっぱり(失敗したら)積極性がなくなったりっていうのがありますね。最初にシュートをミスしたりしたら、そこでボンって(気持ちが)引きこもっちゃうときもあるので。そこでどう変えるかっていうのは、僕、今、自分でも考えているところですね。どうしてもやっぱり、そこを抜けなければいけないなっていうのは自分でも感じます。今、もう少しじゃないかなと思っているので…」

ロイドACは八村のゴンザガでの成長を、三つの段階に分けて考えている。1年目の昨シーズンは新しいことを見て学ぶ時期。英語やアメリカの文化、食事、練習のしかたを、見ることで学んだ。2年目の今シーズンは、それまで学んだことを、実際に経験して成長する時期。「今シーズンは昨季よりずっと多くプレーし、チームで重要な役割を果たすことになる。そして、彼は自分の経験から学ぶことができる」とロイドACは言う。 3段階目となる来シーズンは、「安定してスターであり続けるチャンスの年」と予測する。経験して学んだことを開花させる段階だ。
階段を一段跳びにすることなく、八村自身のペースで成長するためにも、そして日本的な感覚を持つ八村にプレッシャーををかけすぎたり、本人が変に焦ることがないように、ロイドACは繰り返し、このプロセスを語る。

それでも、今のNBAスカウトたちからの注目を考えると、大学卒業を待つことなくアーリーエントリーでNBAに入るという可能性もまったく否定できるものではない。ロイドACはさらにこうも言う。 「彼がこの先、どうプレーするかによって選択肢は決まっていく。だから、『この時までに(NBAに)行くべきだ』という言い方は、私はしたくない。彼の準備ができていないのに行ったら、失敗していなくても、失敗したと感じるだろう。だから、じっくりと毎日築いていかなくてはいけない。うまくいく日もあれば、いかない日もある。悪い日も大事なんだ。それもプロセスの一部、学びの一部なのだから。これはルイにとって、とても大変な旅路なんだ」